大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和39年(わ)925号 判決

本店

北九州市若松区藤木五五四番地の二

事務所

同 区宮丸町四〇番地

テラダ産業株式会社

右代表者取締役

寺田金司

本籍

北九州市若松区宮丸町四〇番地

住居

右同所

右会社代表取締役

寺田金司

明治四三年三月二三日生

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官高木不二雄出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告会社を判示第一の罪につき罰金三、五〇〇、〇〇〇円に

同第二の罪につき罰金一〇、〇〇〇、〇〇〇円に処する。

被告人寺田金司を懲役一年六月に処する。

ただし、被告人寺田金司に対し本裁判確定の日から一年間右

刑の執行を猶予する。

訴訟費用はその二分の一宛を被告会社と被告人寺田金司の負

担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人テラダ産業株式会社は、北九州市若松区藤木五五四番地の二に本店を有し、機械工具の販売、化学製品の製造販売、貿易業務およびこれに附帯する一切の業務を目的とするもの、被告人寺田金司は昭和三三年四月一日右被告人会社設立当初から右会社代表取締役として同会社の業務一切を総括して来たものであるが被告人寺田金司は右会社の業務に関し、法人税を逋脱しようと企て、

第一、被告人会社の昭和三五年一〇月一日から同三六年九月三〇日までの事業年度(昭和三六年度事業年度)における被告人会社の真実の所得は、三四、七六四、〇〇六円で、これに対して納付すべき法人税額は一三、〇六〇、六〇〇円であるのに拘らず、期末棚卸商品の一部を正規経理から除外し、支払手数料を真実の経費よりも過大にして架空計上し、雑収入を計上せず、給料賞与等を架空計上し、簿外預金の利息を計上しない、等の不正経理を行い、右不正経理によつて生じた金を富士銀行若松支店他の銀行に簿外預金として所得の一部を秘匿したうえ、同三六年一一月三〇日若松区堺町四丁目三六四番地所轄若松税務署において、同署長に対し右事業年度の所得金額を一四、五七四、一三〇円である旨虚偽の確定申告をなし、その頃同署長に対し、右確定申告額に基く法人税五、四三八、一五〇円を納付し、前記納付すべき法人税との差額七、六二二、四五〇円を逋脱し、

第二、同三六年一〇月一日から同三七年九月三〇日までの事業年度(三七年度事業年度)における被告会社の真実の所得額は一三三、八〇八、四二一円で、これに対して納付すべき法人税額は五〇、二七三、四四〇円であるのに拘らず、売上および仕入の一部を架空計上し、期末商品の一部を正規計理から除外し、支払手数料、交際費、従業員給料、雑収入等を相互に振り分け且つ真実の右諸経費よりも過大に水増し計上し且つ簿外預金の利息を計上しない等の不正経理を行い、右不正経理によつて生じた金を富士銀行若松支店外の銀行に簿外預金として所得の一部を秘匿したうえ、同三七年一一月三〇日若松区堺町四丁目三六四番地所轄税務署において、同署長に対し、右事業年度の所得金額を、二四、七六四、六九五円である旨の虚偽の確定申告をなし、その頃署長に対し、右確定申告額に基く法人税八、八三九、四三〇円を納付し、前記納付すべき法人税との差額四一、四三四、〇一〇円を逋脱し

たものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実につき

一、被告人寺田金司の第一回公判調書中の供述部分

一、被告人寺田金司の検察官に対する昭和三九年一一月六日付供述調書

一、被告人会社の商業登記簿謄本

判示第一、第二各事実につき

一、第一六回公判調書および当公判廷中の証人福島安成の供述部分判示第一事実につき

一、村屋輔次朗こと村屋助次郎の福岡国税局収税官吏に対する質問てん末書(昭和三九年四月三日付、同月一〇日付、同月一七日付、同年五月一九日付、同年八月二〇日付、同月二一日付、同年九月一六日付、同年一〇月二日付(添付の村屋助次郎の同日付上申書を含む))

一、村屋輔次朗こと村屋助次郎作成の上申書(昭和三九年七月一〇日付、同年九月一四日付(簿外預金関係の分)一六日付、同月二六日付、同年一二月二四日付)

一、村屋助次郎の検察官に対する供述調書(昭和三九年一一月九日付(二通)、同年一一月一一日付、同月一六日付)

一、安倍貞夫の福岡国税局収税官吏に対する質問てん末書(昭和三九年九月一七日付、同月二三日付、同月二四日付、同月二六日付、同月三〇日付、同年一〇月二六日付、同年一二月一七日付同月二四日付)

一、安倍貞夫作成の(福岡国税局収税官吏に対する)上申書(昭和三九年九月一六日付、同月一八日付、同月一九日付、同月二四日付、同月二六日付、同年八月二七日付、同年九月二三日付、同月三〇日付)

一、安倍貞夫の検察官に対する供述調書(昭和三九年一一月一〇日付二通同月一三日付)

一、引田晃作成の(証明書と題する書面)

一、平安保美作成の上申書

一、伊藤弥一郎の検察官に対する供述調書

一、吉富哲郎の検収兼代金請求書

一、熊谷辰男の昭和三九年九月九日付証明書

一、徳渕市司の昭和三九年九月九日証明書

一、引田晃の昭和三九年九月九日付証明書

一、被告人寺田金司の国税局収税官吏に対する質問てん末書(昭和三九年三月三〇日付、九月二三日付、二五日付、二六日付、同年四月三日付、同年一〇月一日付、同年一二月二五日付二通(一〇月一日付、一二月二五日付分につき添付の上申書を含む)

一、被告人寺田金司の検察官に対する供述調書(昭和三九年一一月七日付同月一三日付)

一、第一回公判調書中の被告会社代表者寺田金司および被告人寺田金司の「事実はそのとおり相違ありません」との供述記載(以上の各証拠中判示第一事実(昭和三六年度分)に関する以外の部分を除く)

一、仕入帳一冊(昭和四三年押第一二五号の一)

一、請求書綴(五味屋の分)一綴(右同第一二五号の二)

一、右同 (内田製作所の分)一綴(同第一二五号の三)

一、右同 (西野産業の分)一綴(同第一二五号の四)

一、右同 (小野製作所の分)一綴(同第一二五号の五)

一、右同 (昭和精工所の分)一綴(同第一二五号の六)

一、買掛帳三綴(同第一二五号の七乃至九)

一、経費明細帳(四期分)一綴(同第一二五号の一〇)

一、経費明細帳(広畑店分)一綴(同第一二五号の一一)

一、右同 (光店分)一綴(同第一二五号の一二)

一、右同 (長崎店分)一綴(同第一二五号の一三)

一、右同 (名古屋店分)一綴(同第一二五号の一四)

一、右同 (広島店分)一綴(同第一二五号の一五)

一、右同 (大阪店分)一綴(同第一二五号の一六)

一、銀行帳一綴(同第一二五号の一七)

一、広告費等帳簿(本社分)一綴(同第一二五号の一八)

一、賃銀台帳一綴(同第一二五号の一九)

一、領収書一綴(同第一二五号の二〇)

一、仕入先元帳一綴(同第一二五号の二一)

一、領収証一綴(同第一二五号の二二)

一、元帳一綴(同第一二五号の二三)

一、賃金表一綴(同第一二五号の二四)

一、個人貸付控帳一冊(同第一二五号の二五)

一、雑書類(予金計算書等)一袋(同第一二五号の二六)

一、右同(現金出納控)三綴(同第一二五号の二七)

一、右同(定期予金利息計算書)一綴(同第一二五号の二八)

一、法人税決定決議書(三六年度事業年度分確定申告書)一綴(同第一二五号の二九)

一、現金出納簿(昭和三五年五月六日、同三六年三月一五日付)一冊(同第一二五号の三〇)

一、右同 (昭和三六年六月八日、同年七月一三日付)一綴(同第一二五号の三一)

一、金銭出納帳(昭和三六年度分)一冊(同第一二五号の三二)

一、経費帳(東京店分)一綴(同第一二五号の三三)

一、第四期確定申告綴(決算控)一綴(同第一二五号の三四)

一、決算報告書控(第三回)一綴(同第一二五号の三五)

判示第二の事実につき

一、村屋助次郎の福岡国税局収税官吏に対する質問てん末書(昭和三九年一二月一四日付、同月二四日付)

一、村屋助次郎の上申書(昭和三九年一二月一四日付)

一、安倍貞夫の福岡国税局収税官吏に対する質問てん末書(昭和三九年四月二日付、五月一五日付、同月一九日付、六月五日付、七月三日付、一〇月一六日付、一二月一七日付、二八日付、同月二四日付)

一、安倍貞夫の上申書(昭和三九年五月一五日付、同月二九日付、同年七月一〇日付、同年八月二一日付、同月二七日付、同年一〇月二一日付、同年一二月一九日付、同月二四日付)

一、内村晴夫の福岡国税局収税官吏に対する質問てん末書(昭和三九年四月二日付、同年五月二二日付(添付の同日付上申書を含む)同月二七日付、同年一〇月一日付、同年一二月一八日付)

一、内村晴夫の上申書(昭和三九年五月二八日付、同年八月二四日付)

一、武藤忠敏の取引内容に関する証明書

一、中居定四郎の取引内容に関する証明書

一、中川俊一郎の取引内容に関する証明書

一、橘勧の取引内容に関する証明書

一、稲山嘉寛の取引内容に関する証明書

一、川澄君之介の取引内容に関する証明書

一、加藤弥助の支払証明書

一、吉冨哲郎の支払証明書(二一通)

一、被告人寺田金司の検察官に対する昭和四〇年六月七日付供述調書

一、被告人寺田金司の上申書(昭和三九年一二月二五日付「三七年度分」)

一、被告人寺田金司の福岡国税局収税官吏に対する質問てん末書(昭和三九年一二月二五日付二通)

(以上証拠中村屋助次郎の福岡国税局収税官吏に対する昭和三九年一二月一四日付質問てん末書、安倍貞夫の、昭和三九年五月一五日付同質問てん末書、同年八月二一日付(同年九月三日付)、同年一〇月二一日付、同年一二月一八日付、同月一九日付上申書、内村晴夫の福岡国税局収税官吏に対する昭和三九年五月二七日付質問てん末書、同年八月二四日付上申書、川澄君之介の支払証明書、加藤露典の支払証明書、吉冨哲郎の支払証明書、被告人寺田金司の昭和四〇年六月七日付供述調書以外の証拠については判示第二の事実に関する部分に限る。)

一、法人税確定申告書(昭和三六年一〇月一日、同三九年九月三〇日)一綴(昭和四三年押第一二五号の三六)

一、賃銀台帳(昭和三七年)一綴(同押第一二五号の三七)

一、得意先元帳三冊(同押第一二五号の三八乃至四〇)

一、売掛帳(昭和三六年一〇月から同三七年九月分)一冊(同押第一二五号の四一)

一、公表売上帳(昭和三六年一〇月から同三七年九月分)一冊(同押第一二五号の四二)

一、仕入先元帳五冊(同押第一二五号の四三乃至四七)

一、領収書請求書綴(原田製作所分)一綴(同第一二五号の四八)

一、右同 (寿工業分)一綴(同第一二五号の四九)

一、右同 (園池製作所)一綴(同第一二五号の五〇)

一、右同 (津田駒工業分)一綴(同第一二五号の五一)

一、右同 (東芝機械分)一綴(同第一二五号の五二)

一、右同 (日本水力工業分)一綴(同第一二五号の五三)

一、右同 (日鋳分)一綴(同第一二五号の五四)

一、右同 (三菱商事分)一綴(同第一二五号の五五)

一、右同 (三井物産分)一綴(同第一二五号の五六)

一、園池製作所請求書用紙二冊(同第一二五号の五七、五八)

一、請求書用紙(東芝機械分)一冊(同第一二五号の五九)

一、右同 (日本水力工業分)一冊(同第一二五号の六〇)

一、右同 (津田駒工業分)一冊(同第一二五号の六一)

一、右同 (三菱商事分)一冊(同第一二五号の六二)

一、右同 (三井物産長崎出張所)一冊(同第一二五号の六三)

一、右同 (日鋳株式会社)一冊(同第一二五号の六四)

一、右同 (寿工業分)一冊(同第一二五号の六五)

一、右同 (栗田製作所)一冊(同第一二五号の六六)

一、印鑑三二個(一九個分同押第一二五号の六七、四個分同六八、九個分同六九)

一、請求書及び領収書四綴(同第一二五号の七〇乃至七三)

一、経費明細帳一〇冊(同第一二五号の七四乃至八二)

一、元帳一冊(同第一二五号の八三)

一、請求書綴(内田製作所分)一綴(同第一二五号の八四)

一、買掛帳(昭和三五年一〇月から同三六年九月分、同三六年六月から同三七年五月分)二綴(同第一二五号の八五、八六)

一、賃金台帳(四期分)一綴(同第一二五号の八七)

一、雑書類三綴(同第一二五号の八八)

一、法人税決定決議書一綴(同第一二五号の八九)

一、得意元帳(昭和三六年一〇月から同三七年九月までの分)一冊(同第一二五号の九〇)

一、請求書及び領収書一綴(同第一二五号の九一)

一、雑書類(領収書等一綴)(同第一二五号の九二)

一、右同(第五回決算報告書等)一綴(同第一二五号の九三)

一、昭和三八年度請求書領収書一綴(同第一二五号の九四)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件事業年度における被告会社の真実の所得額およびこれに対して納付すべき法人税額を争い、その理由として、被告会社が、各支店間で販売競争をさせるために売上げ奨励金制度を設けたことから、各支店の係員において売上げを水増し報告したこと、および東京支店において不正横領を働いた社員の帳簿上の操作による犯罪の隠べい手段として売上げの水増し記帳が行われ、昭和四二年九月頃の決算期においては、六九、〇〇〇、〇〇〇円の支店の売上げ過大計上を発見したものであつて、この内相当額が右事業年度中に発生していると主張するので、この点につき判断する。

第一七回公判調書中証人早田公の供述部分、第一三回公判調書中証人安倍貞夫の供述部分、証人向井七武親に対する受託裁判官の尋問調書、第一八回公判調書中の被告人の供述部分を総合すれば、弁護人主張の如く、昭和三七年頃から被告会社に売上げ奨励金制度が設けられ、それに伴い、その主張にかかるような弊害が発生したこと、特に東京支店においてその主張にかかるような事実が発生したこと、が認められ、更に、第一六回公判調書中証人福島安成の供述部分および同証人の当公判廷における供述によれば、被告会社には、昭和三五年一〇月一日から同三六年九月三〇日までの間に兼松株式会社に対して、一、八三八、〇〇〇円の、同三六年一〇月一日から同三七年九月三〇日までの間に三菱電機株式会社に対して、二七〇、二一〇円の、富士製鉄株式会社に対して、一、〇九三、一〇〇円の、各売上げ過大が存在すること、昭和四二年九月決算において被告会社が約二〇、〇〇〇、〇〇〇円の過大計上をしていたことが認められる。

しかしながら、右福島安成の各証言および供述部分によれば、前示各事業年度において、被告会社の整理誤りで脱洩していたという理由により告発していない所得額が、昭和三五年一〇月一日から同三六年九月三〇日までの事業年度には、五、二三二、三七〇円、同三六年一〇月一日から同三七年九月三〇日までの事業年度においては五、三六二、七五九円存在し、右売上げ過大はいずれも右不告発所得額から差引くので、告発した所得額には、影響を及ぼすものでないことが認められる。

かえつて、前示安倍貞夫の供述部分および被告人の供述部分からは当時の被告会社の経理状態からすれば、その本店が、支店の架空の売上げ計上を全く看過し通すということは極めて困難であつたと推論し得るし、又売掛金を数年間も回収せず放置することも、営利追求に敏感である被告会社の様な場合には通常考えられないことであつて、右各事業年度に、若し支店で売上げの過大計上がなされれば、本店としても当然それに気が附く筈である。

前示早田公の供述部分および被告人の供述部分向井七武親の尋問調書自身、右売上げ過大が、ここで問題とする事業年度内に発生したものであるかを明確になし得ず、したがつて、右証拠は未だ反証として当裁判所の心証に影響を及すものではないし、他にこの点に関し、反証となり得べき証拠は存在しない。よつて、弁護人の前示主張は採用し得ない。

(法令の適用)

被告人寺田金司の判示第一および第二の所為は昭和四〇年法律第三四号法人税法附則一九条によれば各昭和二二年法律第二八号法人税法(旧法という)四八条一項に該当するので各所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条、一〇条を適用して犯情において重いと認められる判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内において同被告人を懲役一年六月に処し、被告人寺田金司の右各犯行はいずれも被告会社の業務に関してなしたものであるから旧法人税法五一条一項に従い同会社に対し、判示第一の罪については同法四八条一項を、判示第二の罪については、同法四八条二項を、各適用することになるところ、判示第二の犯罪成立の前に昭和三六年三月三一日法律四九号法人税法の一部を改正する法律(同年四月一日施行)により旧法五二条の規定(刑法四八条二項を適用しない旨の規定)を削られたのであるが判示第一の罪についてはなお旧法五二条が適用されるので、結局所定罪金額の範囲内において被告会社を判示第一の罪について罰金三、五〇〇、〇〇〇円に、判示第二の罪につき罰金一〇、〇〇〇、〇〇〇円に処し、被告人寺田金司に対しその情状にかんがみ刑法二五条一項一号を適用してこの裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により、被告会社と被告人寺田金司をしてその二分一宛を負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助 裁判官 蜂谷尚久 裁判長裁判官藤田哲夫は転勤したので署名押印することができない。裁判官 鳥飼英助)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例